超対称性理論

素粒子は一般にスピンと呼ばれる固有の角運動量があります。これは、例えて言うなら素粒子の自転の大きさに当たるものですが、その大きさは整数か半整数に限られ、素粒子の種類毎に決まっています。クォークやレプトンのスピンは1/2、一方、光子やウィークボゾンなどのスピンは1です。標準理論のヒッグス粒子のスピンは0です。また、整数スピンの粒子はボゾン、半整数スピンの粒子はフェルミオンと呼ばれ、基本的性質に大きな違いがあります。

超対称性があると、全てのクォーク・レプトンの各々に、全く同一の質量や電荷を持つスピン0の粒子(超対称パートナー)が存在しなければなりません。一方、光子などスピン1のゲージ粒子にはスピン1/2のゲージーノ、スピン0のヒッグス粒子にはスピン1/2のヒグシーノと呼ばれる粒子がパートナーです。しかしこのようなパートナーは観測されていません。例えば、電子と同じ質量を持つスピン0の粒子などは存在しません。そこで超対称理論では、超対称性が完全ではなくてパートナーの質量が100〜1000GeV程度と重く、そのためこれまで観測されていないと考えています。しかし、これらのパートナー粒子が本当に存在すれば、正にLHCで発見されるでしょう。

確かに数学的にはこのような対称性は許されるのですが、なぜ超対称性を素粒子の理論に対して考えるのでしょう。それには次に述べる3つの理由が挙げられます。先ず、ヒッグス粒子の質量の問題です。スピン1/2、スピン1の粒子の質量は、対称性によって禁止することが出来ます。そのため、光子に質量がないことや、クォーク・レプトンの質量が例えば大統一理論のスケールに比べて非常に小さいのは、標準理論の対称性の現われとして理解できます。それに対して、スピン0の粒子の質量は対称性によって禁止できないため、理論が適用可能なエネルギースケールの最大程度の質量を持つことが自然であると考えられるのです。もし、標準理論が大統一理論のスケールまで成り立つとするなら、ヒッグス粒子の質量は大統一理論のスケール(1016GeV)となり、とても標準理論のスケール(100GeV)が説明できません。逆に言えば、標準理論の適用限界がおよそ1TeV(=1000GeV)以下に現れることを意味しているのです。これは正にLHC実験のエネルギー領域であって、超対称パートナーでなくとも何か標準理論を越える粒子や相互作用がLHCで発見されると考えられている理由がここにあります。もし、超対称性があると、スピン0のヒッグス粒子はスピン1/2の粒子と関係付けられ、そのため対称性によってその小さい質量が理解できるようになるのです。

2番目の理由は、大統一理論の結合定数の一致ががうまく説明できる点です。標準理論の3つの基本的な相互作用の強さは実験で精度良く決められていますが、それは相互作用が起こるエネルギーで変化します。もし大統一理論が本当であれば、これらの相互作用は非常に高エネルギーに行くと、その強さが一致することなるはずです。しかし、標準理論で計算すると右図の黒い線のようにわずかに一致しないのです。ところが、超対称理論では、相互作用の強さが2×1016GeVで見事に一致するのです。

最後の理由は宇宙の暗黒物質(ダークマター)の説明です。近年の宇宙観測の発達によって、宇宙の全質量の約23%は暗黒物質と呼ばれる電磁気的な相互作用を全く行わない安定な粒子で占められていることがわかっています。しかしながら、標準理論には暗黒物質の候補となる粒子が無いのです。(ニュートリノは電気的に中性で安定な粒子ですが、質量が小さすぎて観測と一致しません。)ところが、超対称性理論では、最も軽い超対称パートナーは安定であるという特徴があり、また丁度100GeVの質量は暗黒物質の量をうまく説明できることが分かります。即ち、超対称理論には自然に暗黒物質の候補となる粒子が備わっているのです。ただし、超対称理論でなくとも、暗黒物質を持つ理論はいろいろと考えられるので、やはりLHCや直接探索(例えばカミオカンデのある施設では、宇宙に漂う暗黒物質の反応を直接見るXMASS実験が進行中)などの実験によって、その正体を明らかにすることが求められています。