陽子と電子の電荷は符合が逆でその大きさが全く等しくなっています。そのため水素原子は電気的に中性で、ほんの少しでもバランスが崩れていたら太陽のような恒星は存在できなくなってしまいます。われわれが知っている全てのクォークやレプトンの電荷にはこのような関係があり、それは電荷の量子化と呼ばれます。しかし、標準理論では、電荷の間に厳密な関係が存在する理由はなく、何か標準理論以外の理論によって決められていると考えざるを得ません。
大統一理論は、標準理論の対称性を拡大して、クォークとレプトンを統一的に扱う理論です。そのため、クォークとレプトンの電荷の関係、即ち電荷の量子化が対称性のみから数学的に導かれてしまうのです。さらに、各世代の全てのクォークとレプトンが全く同種の粒子として表されてしまいます。
強い力を感じるクォークと感じないレプトンが対称的に振舞うには、これらの力も統一される必要があります。したがって、大統一理論は標準理論の3つの基本的な相互作用の統一理論と言うことも出来ます。標準理論の3つの基本的な相互作用の強さは実験で精度良く決められていますが、それは相互作用が起こるエネルギーで変化します。面白いことに、強い力は高エネルギーでは段々に弱くなり(漸近自由性)、ついには1015〜16GeVという非常に高いエネルギーで、3つの力の強さが同程度になってくることが理論的に分かります。実は右図のように、標準理論でこの力の強さの変化を計算すると右図の黒い線のようにわずかに一致しないのですが、超対称理論では、相互作用の強さが2×1016GeVで見事に一致するのです。
標準理論では、その対称性のためにあらゆる相互作用において必ずクォーク数やレプトン数が変化することはありません。そのために陽子はそれよりも軽い電子やニュートリノに崩壊することなく安定に存在できるのです。しかし、大統一理論はクォークとレプトンを区別しないので、クォークがレプトンに変わる相互作用があり、そのため、右図のような過程で陽子が崩壊するという現象がおこります。
この陽子崩壊を見つける実験をおこなっているのが、ニュートリノの観測装置としても有名な岐阜県神岡鉱山にあるスーパーカミオカンデ(右図)です。タンクにある水に含まれる陽子が崩壊して放出される高エネルギーの粒子が放つ光(チェレンコフ光)をタンクの周りの光電子増倍管で検出する装置です。しかしながら、まだ陽子崩壊は発見されておらず、陽子の寿命は少なくとも1034年以上であることが分かっています。(ちなみに宇宙の年齢は137億年です。)この寿命は、最も単純な大統一理論で予言される寿命より2桁以上長いので、大統一理論には何らかの変更が必要のようです。いづれにしても、加速器の実験ではとても実現できない高エネルギーの現象が、近い将来見つかるかも知れません。