遺伝子が利己性に基づいて行動すると考えれば生物界の様々な現象を理解できる。大学生の頃ドーキンスが流行って、「利己的な遺伝子」が本屋によく並んでいた。ドリーもiPSもまだないとき、知的好奇心をみたしてくれる本ではあったが、これによって救われた人がいたかどうかはわからない。
院生の頃、先輩がセミナー終了後にタバコを一服ふかしていた。大学内での禁煙は今ほど徹底しておらず、先輩は立ったまま肩でドアにもたれながら、セミナー室から廊下へ向かって煙を吹いていた。ねえ、高橋君、この世は遺伝子が動かしている。遺伝子は意志をもっているわけではなく、ただ機械的に利己的な行動をしているだけだ。そういうものにこの世は支配されている。何でもよく知っている話の面白い先輩だった。遺伝子は自己を繁殖させるために行動する。この行動を究極に推し進めると、遺伝子にとって地球環境は狭すぎる。利己的な行動の必然として遺伝子は宇宙空間に飛び出すはずだと先輩は自論を展開する。
だけども、放射線が飛び交う宇宙に飛び出せば遺伝子は簡単に壊れてしまうでしょうと聞くと、先輩はフンフンフンフンと笑いながら、だから遺伝子は自身の入れ物である生物自体を捨てるだろうと言う。生物を捨てて放射線を防護する金属で自らを包み、遺伝子は宇宙へと飛び立つのだと。
話はこの辺で終わったが、最近、ロケットの外側に付着したDNAが宇宙旅行に耐られるという研究があることを知る。そんな記事を読んで先輩の言っていたことをふと思い出し、あながち単なる空想ではないかもしれないなと思ったのだ。