蛍光灯の交換

記憶というのは曖昧なもので、ふとした時に思い出すことが真実だったかどうかはわからない。それを過去との何らかの因果として納得できるときもあれば、それさえ判然としないときもある。

研究室の蛍光灯が切れかかって点滅していた。蛍光灯の交換の仕方がわからないのでと院生に言われ、用意されていた脚立に乗って蛍光灯に手を伸ばしたとき、そう言えば大学生の頃、オフィスの蛍光灯を清掃するバイトをしたことがあったなと思う。バブルだったからこんな一日だけのバイトでも結構なお金がもらえたように思うが、はっきり覚えていない。

日曜日でその会社は休みだったと思う。まずは蛍光灯を外して、洗剤をつけた雑巾で汚れを拭きとる。天井に貼り付いた照明本体の反射板も、黒く汚れた電極まわりを中心に拭いていく。それが終わったら蛍光灯を元通りに取り付けて、となりの照明器具の作業に取り掛かる、という繰り返しで、上を向きながらの作業で首が痛くなった(きっとそうだったに違いない)。そのオフィスの全ての照明を掃除し終わると、次のオフィスへ移動してまたその作業をする。すべての部屋を掃除し終わって隣のビルに移動したかどうかは覚えてないが、そんな一日だった。

しかし、脚立がなかった。確か脚立は社員さんが使っていて、バイトは靴を脱いで机の上に乗って手の届く範囲だけを掃除した。休日出勤で仕事をしている人の傍で作業するときは、邪魔にならないように気を配るがやり難い。知らない奴らが何人も机の上に乗って天井に手を伸ばしている様子を見たら、大事な仕事も手に着かず冷たい視線を向けたくなる気持ちもわからなくはない。だけど、そっちも仕事ならこっちも仕事だ、と思いながら掃除を続けたように思う。

そんな二十年以上も前のことを思い出しながら院生部屋の蛍光灯を交換をした。だからなのか、蛍光灯の交換だけでなく、反射板を雑巾で拭いていた。